目の見えない人の夢

(略)実は私も失明当時にやはり夢に姿があったのであるが、今は夢を見てもまるで姿はなくて私の夢は全く声ばかりである。(略)私の悪夢はこわい姿が見えるのではなくて、恐ろしい何か大きな音がしたと思って夜中に眼がさめてみると、辺りはしんとしていてその物音はやはり夢であったのである。また私は蜘蛛が嫌いなので、悪夢というと蜘蛛が床の中へ入ってきて背中を這ったり、足をぞろぞろ這ったような夢を見て、びっくりして起きる事もある。また天井から何か下りてきて胸を押さえるような夢を見る事もある。(宮城道雄*1「夢の姿」)

『新編 春の海』(千葉潤之介/編・岩波文庫)に収められている随筆には、宮城道雄が「見た」夢に関する話が度々出てくる。その殆どが音と感触に関する夢である。ちなみに、彼は生後半年程で眼を患い、八歳の時失明の宣告を受けた。余談だが、今日の夢に出てきた内田百輭とは仲の良い友人で、確かこの二人がお互いに見る夢について語っている話が百輭の随筆にあった気がする。

*1:「春の海」「水の変態」などの筝曲の作曲家にして、名演奏家