安南の王子

色白で彫りが深くて髪はサラサラで笑顔が素敵なの! といった風の、所謂美青年がいる。彼には名前が無い。いつもにこにこ笑っていて、大人しい・・・と言えば聞こえは良いが、ただ単に順応なだけとも言える。何を考えているのかさっぱり分からないが、それでも人当たりは悪くなく順応なので、彼を嫌う人はまずいない。
彼には恋人が沢山いる。その一人は洋子という、世話好きな女で彼より幾らか年上である。気が強くて、彼が他の恋人の所に行こうとするのを全力で止める(でも彼は行ってしまうのだが、というより連れて行かれるのだが)。また、初老の男の恋人もいる。男は彼に心酔している。この男は嫉妬深く、洋子とはかなり険悪な間柄で、彼を巡る喧嘩沙汰はしょっちゅうである。
それでも、彼はぼんやりにこにこ笑っているだけで、心ここにあらずといった風でその諍いを見ている。
・・・という森茉莉の小説のような夢だが、主観性が無く、それこそ小説を読んでいる時と同じ感覚を持つ夢だった。ちなみにこの夢の元ネタは、寝る前に読んでいた山川方夫の『安南の王子』だと思われる。でも、こうやって書くと三島由紀夫の『禁色』に出てくる悠一とイメージが被っている気がするなぁ。